財務諸表の概要②(貸借対照表 Part2)

クリニック決算診断

はじめに

今回は、前回同様に貸借対照表について触れていきます。
Part1は概要の説明でしたが、Part2では金額の分析方法についてより詳しく見ていきます。
なお、Part1の続編となっていますので、「財務諸表の概要②(貸借対照表 Part1)」をご覧になってない方はこちらをご覧の上、以下のコラムをご覧いただけると幸いです。

前回紹介したサンプルデータの数値も使用しますので、以下に再掲します。

安全性分析

ここでは、医業経営の安全性を評価する指標をいくつか紹介します。
なお、安全性とは、一般的には医療機関の債務弁済能力を指します。

【自己資本比率】

自己資本比率とは、総資産に対する自己資本(純資産)の比率のことであり、以下の計算式で求めます。

自己資本比率(%) = (純資産 / 総資本) × 100

この指標を用いることで、「借金に頼らず自己資金でどれだけ経営を回していけているのか」について明らかにすることができます。
一般的には50%以上が良いとされていますが、上記でも述べた通り、それが一概に正しいとはならないので注意が必要です。また、この基準は一般的な「会社」を対象としたものであるため、株主のいない医療機関ではかなり低く出る傾向にあります。

参考に、上記のサンプルデータの比率を求めると、×1年3月期は約5.71%、×2年3月期は約8.12%であり、低く出ていることがわかります。なお、これらの指標は単純に期間比較をしたり、同規模の医療機関をベンチマークとして比較することで、経営の良し悪しが判断できます。

【流動比率】

流動比率とは、流動資産の金額を流動負債の金額で除した比率であり、以下の計算式で求めます。

流動比率(%) = (流動資産 / 流動負債) × 100

この指標を用いることで、「短期的な負債を弁済する能力」について明らかにすることができます。
一般的には200%以上が良いとされていますが、実際には200%を超える会社等はあまりありません。

参考に、上記のサンプルデータの比率を求めると、×1年3月期は約178.57%、×2年3月期は約214.92%であり、短期の安全性に関しては優れていると言えます。

【固定比率】

固定比率とは、固定資産への投資を借金をせずに行えているかを見る比率であり、以下の計算式で求めます。

固定比率(%) = (固定資産 / 自己資本) × 100

この指標を用いることで、「固定資産への投資の元手を純資産でまかなえているか」について明らかにすることができます。
一般的には100%以下が良いとされていますが、医療機関は純資産が少なく、病院規模にもなると固定資産への投資額が大きくなるため、当該比率が非常に大きく出てしまいます。

参考に、上記のサンプルデータの比率を求めると、×1年3月期は1,125%、×2年3月期は約794.64%であり、長期の安全性に関しては危機感を持つ必要があると言えます。
ですが、固定比率はあまりにも厳しい指標であるため、元手に固定負債を加えた固定長期適合率という指標があります。

【固定長期適合率】

固定長期適合率とは、固定比率の指標を緩めたものであり、以下の計算式で求めます。
通常は、固定比率ではなく固定長期適合率を見て評価します。

固定長期適合率(%) = (固定資産 / (固定負債 + 自己資本)) × 100

この指標を用いることで、「固定資産への投資の元手を流動負債以外でまかなえているか」について明らかにすることができます。
こちらも一般的には100%以下が良いとされ、長期の安全性を評価する代表的な指標となります。

参考に、上記のサンプルデータの比率を求めると、×1年3月期は約80.36%、×2年3月期は約77.26%であり、長期の安全性に関しては優れていると言えます。

まとめ

ここまで、B/Sの見方について述べさせていただきましたが、B/Sを見ることで医療機関の「安全性」を評価することができます。

ただし、B/Sのみを見て明らかにできることは多くなく、中にはP/Lの科目と組み合わせて求める指標もあります。
もちろんP/LやB/Sを単体で見ることで明らかになることもありますが、医療機関の経営状態を正しく理解するためには財務諸表の全体像を把握する必要があります。
(財務諸表全体の見方については、次回以降のコラムで紹介します)

よって、次回は最後の財務諸表である「キャッシュ・フロー計算書」の見方をご紹介します。
この財務諸表を見ることで、B/Sの「現金及び預金」の増減から把握するよりも詳細なキャッシュの動きを把握できますので、ぜひ次回のコラムもご覧ください。

➡次へ進む「財務諸表の概要③(キャッシュ・フロー計算書)

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