1.はじめに
今回のコラムは、クリニックの資金調達に関する内容になります。
クリニックを開業・経営していくにあたって最も重要なものは「お金」であり、これがないと医療を提供することはできません。
そしてクリニックは資金調達によってお金を集めることになりますが、一体そのお金は「いつ」「どこから」「どうやって」調達することになるのでしょうか。
ということで今回は、お金の集め方について詳しく見ていきましょう。
【目次】
2.資金調達の方法
資金調達の方法としては、大きく分けて2種類に分かれます。
以前のコラムにて、「貸借対照表の貸方(負債・純資産)」は資金調達方法に関する資料であると述べましたが、調達方法には借入れによる調達と自己資金による調達の2種類があります。
株式会社等である場合には株主等からの出資も自己資金に含まれることになりますが、今回はクリニックに視点を置いているため、これを除いた上記2種類の調達方法について説明します。
まず先に「自己資金」から説明すると、先生方がはじめから有している金銭等を意味します。
つまり、借入れをせずともすでに調達されている資金を指し、返済の必要性がなく安全性が極めて高い調達方法になります。
一方「借入れ」とは、主に銀行等からの融資を受けることを意味し、これを受けるには審査があります。また、返済の必要があるため、自己資金と比べ安全性が低い調達方法になります。
一般的に資金調達といったら「借入れによる調達」を想像される方が多いと思いますが、「自己資金による調達」についても立派な資金調達方法の1つとなります。ただし、調達の中でも特に検討が必要なものは前者であるため、ここからは「借入れによる調達」について詳しく見ていきます。
3.借入れが必要な状況
借入れが必要な状況は主に3つあると考えられます。
1つ目は、クリニックを開業する場面です。
いくら小さなクリニックであっても、開業時には大きな資金が必要になります。こちらのコラムでもご紹介した通り、開業する際には土地・建物や医療機器等の固定資産を購入等する必要があり、これだけでもかなりの金額となります。このため、多くの場合は自己資金だけで賄うことはできず、借入れに頼らざるを得ない状況が生まれてしまいます。このように、クリニックが借入れを必要とする場面として真っ先に挙げられるのが開業時となります。
2つ目は、追加で設備投資を行う場面です。
既に保有している医療機器が故障したり新たな医療機器が開発された際に、医療機関では新たな医療機器を購入等することがあります。また、医療機関の規模を大きくしたいとき等、土地や建物への追加の支出が行われることがあり、この場合には特に大きな資金が必要となる場合があります。
なお、この場面においては、開業時ではなく何年か経営をしている中で生ずる支出であるため、借入れが必要かどうかはその経営状況にもよるためケースバイケースとなります。
3つ目は、災害級の出来事(新型コロナウイルス感染症等)により経営が悪化してしまった場面です。
コロナについては最近の出来事になりますが、こういった不測の事態が起こってしまうと経営状況は一転します。これまで黒字を出し続けていた事業者でも赤字を出していた事業者でも、多くの事業者が大きなマイナスの影響を受け、突然に資金不足に陥ることが生まれてきてしまいます。コロナの場合、大きな病院ほど国からの補助金により致命傷とはならなかったケースが多いですが、小さなクリニックほど経営が著しく悪化するケースが多くなっています。
よって、こういった事態により経営が悪化した場合には借入れを検討せざるを得なくなるでしょう。コロナ禍における貸付け状況等については「6.貸出し・貸付けの現状」で説明します。
4.クリニックの開業資金
上記3.において開業時に借入れの必要性があることに触れましたが、実際のところ開業資金はいくらくらい必要になるのでしょうか?
その金額の詳細は「クリニックの開業資金」のコラムに記載があります。
ご覧いただくと、郊外の戸建開業(内科)の場合、土地や建物、医療機器といった固定資産だけでも約1億1,180万円の資金が必要であることがわかります。
この金額は「建物及び医療機器を購入」と仮定したものであるためやや高額となっていますが、当然「リース」という選択をすれば金額は安くなります。ですが、「リース」についても実質的には借入れの性質を持つため、開業時にはどの選択をしようにも借入れは行う必要性は高くなります。
また、前提は「戸建て」であるため、テナント開業を選択することにより初期費用は大きく抑えられます。ただし、以前のコラムでもご紹介した通り、テナント開業にはデメリットも存在することを忘れてはなりません。
5.借入れの可否及び金額
さて、ここまでは借入れ(融資)を受ける必要性についてご紹介しましたが、そもそも融資を受けるには審査があり、この審査に落ちてしまうとお金を借入れることができません。つまり、借入れる必要があっても借入れることができないため、「資金不足の状態」となり、「決算書上の赤字」よりも危険性の高い状態に陥ってしまいます。これが開業時であればまだよいですが、開業後に起こってしまえば一大事です。よって、ここからは融資を受けることができるかどうかについて、また、金額はいくらまでなら借りられるのかについて見ていきたいと思います。
(1)借入れの可否
①開業時の場合
開業時については、結論から申しますと基本的に借入れは可能となります。
ですが、当然信用なく貸してくれることはなく、事業計画等、将来の見通しをはっきりと伝えることが必要になります。その他信用されるための方法として担保設定や保証料の支払いといった手段もありますが、これらを無しにしても借りることは可能です。その例としては、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」というものがあります。
「新創業融資制度」とは、主に新たに事業を始める人向けの制度で、無担保・無保証人で利用することができます。ただし、自己資金を0円とした借入金のみによる事業を開始することはできず、創業資金総額の10分の1以上の自己資金が必要になります。
また、担保や保証人を設定する方法として「新規開業資金」という制度があります。
このご紹介した2つの制度は共に「設備資金」と「運転資金」の両者に活用することができるため、限度額が限度とはなりますが、有効的に利用することができると考えられます。
なお、今回は日本政策金融公庫の一部の制度についてご紹介しましたが、「利子の支払い」は当然ながらありますので、利率等の条件の比較は決して怠ってはなりません。
②開業後の場合
開業後に追加の設備投資を行ったり経営状況が悪化した場合には追加の借入れが必要になる場面があります。
こういった際に借入れは可能なのでしょうか。
実はこういった場合も借入れは可能となります。
今回はこの例として、福祉医療機構の制度について見ていきたいと思います。
まず追加の設備投資を行いたい場合には、診療所に対するものとして「建物の増改築資金」の制度があります。診療所の全面又は一部の建て替え、改修等を行う場合には担保・保証人の条件はあるものの融資を受けられる可能性があります。
次に状況が悪化した場合ですが、「経営環境変化に伴う経営安定化資金」の制度があります。これも上記と同じく担保・保証人の条件があり、機構が行う経営診断を受ける必要があります。
③災害時の場合
昨今のコロナ禍のような災害が起こってしまったときにも借入れは可能です。ただし、大半はその災害により業績が悪化した場合に限り利用することができ、災害の影響を受けなかったことが明らかな場合には受けることはできません。
この例としては日本政策金融公庫の「新型コロナウイルス感染症特別貸付」があり、無担保で融資を受けることができます。また、設備資金と運転資金の両者を目的とすることができ、上限の範囲内で幅広く利用することができます。
ただし、あくまで「借入れ」であり「給付」ではないため、返済の必要があります。当然リスクが生じるため、国からの補助金を利用した後の最終手段としてこの融資は利用すると良いでしょう。
(2)借入れの金額
借入れが可能な金額については、その融資を受ける先や融資の種類等によって異なります。
某都市銀行の場合、借入金額は最大5,000万円となっており、その借入期間は最長10年となっています。
また、日本政策金融公庫が行う小規模向けの新規開業資金としては、原則として最大7,200万円の借入れが可能であり、返済期間は資金調達目的(設備資金 or 運転資金)により異なります。
福祉医療機構の場合、新築資金は原則3億円以内(有床診療所以外)となっており、他と比べて高額な借入れが可能なときがあります。一方、建物の増改築資金についてはその開設地が病床不足地域か病床充足地域かによって異なります。
このように、福祉医療機構の場合は開業資金の多くを借入れにより調達できる可能性はありますが、基本的には開業資金の全額を借入れにより賄うことは困難な状況です。また、自己資金の割合によっても借入れが可能な金額は変わってくるため、ある程度の自己資金を準備しておくことは必要になります。
また、今回は銀行のうち都市銀行をご紹介しましたが、地方銀行の場合は都市銀行以上の融資を受けられる可能性もあります。詳しくは各事業者にお問い合わせください。
6.貸出し・貸付けの現状
現状、新型コロナウイルス感染症の拡大が始まった2020年における貸出し・貸付け金額が大きく増加しており、特に運転資金についての貸付けが多くなっています。
福祉医療機構の貸付け状況(医療貸付の貸付残高)を見ると、長期運転資金について、2017年度は16,176,951千円(582件)だったのに対し、2020年度には1,213,052,173千円(19,699件)になっており、金額ベースでは約75倍、件数ベースでは約34倍となりました。一方、新築資金については、2017年度は472,524,730千円(2,178件)だったのに対し、2020年度には373,435,919千円(1,725件)になっており、金額ベース、件数ベースともに約0.79倍と減少しました。
以上から、災害時にはイニシャルコストに充てる目的の貸付けが減少し、ランニングコストに充てる目的の貸付けが大きく増加することがわかります。今後は、コロナの完全終息までにはまだまだ時間がかかることに加え、原材料の価格高騰といった別の要因も発生していることから、こういった状況がしばらく続いていくのではないでしょうか。
7.まとめ
今回はクリニックの資金調達に関する情報をご紹介しました。
冒頭にもお伝えしました通り、「お金」というものは経営をしていくうえでとても大切な役割を果たします。
このため、融資を受けることを含め資金調達は積極的に行っていくべきではありますが、調達方法によっては当然リスクも生ずることになるため、意思決定をする際には検討に検討を重ねて決めていく必要はあるでしょう。
以上で、ご紹介を終わらせていただきます。
また次回のコラムでお会いしましょう。
8.参考コラム
・「クリニックの開業資金」