1.はじめに
今回は、クリニックの開業形態の一つとして「医療モール」というものを新たにご紹介します。
一般的に「クリニックを開業する」というと戸建ての建物を建設するイメージがあると思いますが、最近ではテナント開業(以下、「テナント」という。)をする先生方も増えてきています。
その戸建てやテナントの中には医療モールというものもあり、オフィスビルやショッピングセンターの一画を借りるテナント等とは少々異なる点があります。
このコラムでは、まず戸建てとテナントの違いについて触れたうえで、医療モールについて見ていきたいと思います。
2.戸建てとテナントの違い
(1)戸建てとは
戸建てとは、一般的な一軒家のようなもので、建物を独立させて事業を行っていく方法です。
クリニックの多くはこの形をとっており、普段目に入るクリニックは戸建てのものが多いのではないでしょうか。
戸建てにするメリットとしては、開業をしようとする先生方が自由に内装や外観を決められるので、そのクリニックの色を一から自分たちで作り上げることができる点があります。これと関連したデメリットとして「初期投資額が高くなる」という点がありますが、戸建ての場合、今後数十年と事業を行っていく建物になりますので、場合によっては必要な出費に入るのではないでしょうか。
また、他のメリットとしては、開業をする場所を自由に決めていける点があります。最初の調査(診療圏調査等)は手間がかかりますが、これも前述同様、建物は長期間にわたって使用していくことになるため、投資や手間を惜しまずに行動することが吉と出る場合も少なくありません。
以上、簡単に戸建ての方法について触れましたが、これに対してテナントとはどのようなものなのでしょうか。
(2)テナントとは
テナントとは、オフィスビルやショッピングセンター等の一画を借り、その一画で事業を行っていく方法です。
戸建てとは異なり、他の事業者と共同で建物を利用することになります。
このメリットとしては、比較的立地の良い場所で事業を行うことができ、かつ、他の事業者の従業員や消費者(顧客)をターゲットにすることができるため、集客を効率よく行うことができる点があります。開業した時期に広告宣伝に最も力を入れる点については変わりありませんが、この労力から得られる成果は大きくなると考えられます。
一方、デメリットに関しては戸建てのメリットの真逆となります。テナントを選択すると、内装や外装の選択に制限がかかり、また開業場所についてもその建物がある場所に限られてきます。さらに、他の事業者との関係が悪くなると事業が行いづらくなることも考えられるため、テナントを選択する際にはよくよく考えて場所を決める必要があります。
(3)戸建てとテナントの違い
両者の違いについて、簡単に以下の表にまとめます。
これを見ると、「戸建て」の方が比較的自由に事業を行える印象を持ちますが、初期投資が大きく集客を自力で行う必要があることから、開業後しばらくの間は苦しい経営が続いていくことが考えられます。ただ、波に乗ってしまえば安定に持っていけるのが「戸建て」の良いところではないでしょうか。
一方「テナント」については、場所や外観等に制限がかかるため自分の思うように開業ができない可能性もあるにはあるのですが、何より初期投資を小さく抑えられるため、開業後直ちに大赤字ということは「戸建て」と比べると少ないという印象を抱きます。また、集客についてもその場所の立地によっては必要最小限の広告宣伝をするだけでも十分に達成されることが考えられ、これが「テナント」の一番のメリットといっても過言ではありません。ですが、建物を購入したわけではないので、長期にわたって賃借料等の運用コストが発生することは無視できません。もし思うように集客ができなかった場合にはその費用だけでも経営に大打撃を与えますので、早めの撤退を検討する可能性があることを忘れてはなりません。
さて、そんな戸建てとテナントですが、最近では「医療モール」というものが世に生まれてきており、その他の開業とは少し異なる効果が期待されています。ここからはその「医療モール」について見ていきましょう。
3.医療モールについて
(1)医療モールとは
医療モールとは、各診療科を専門とする事業者が一つの場所に集まることで総合的で専門的な医療提供を目指す開業方法であり、戸建ての建物を一か所に集結させる形もあれば、一つの建物にテナントという形で医療機関を集める形もあり様々です。
複数の医療機関が集まり連携することで、より専門性が高く広範囲の診療を行うことができるようになるため、地域医療を支えていくうえでもその存在というのは大切にされていきそうですね。
(2)メリット・デメリット
医療モールのメリットとしては、1か所に医療機関が集結するため認知度が高まりやすいという点があります。基本的には開業前から複数の医療機関が医療モールに存在している形になるので、新規開業をする際に1から広告宣伝で顧客を集める必要はありません。これはテナントのメリットと同じですが、医療モールの場合には「医療サービスを受ける目的でやってくる人」が大多数を占めるため、その効果は顕著に表れるでしょう。また、医療機関同士の連携が図りやすくなるため、患者さんの要望にも応えやすくなります。医療提供という事業を行う上ではこれも大切なメリットの一つになるのではないでしょうか。
一方デメリットとしては、医療モール内の他の医療機関の悪い評判がそのまま反映されてしまう点が挙げられます。医療機関同士で連携を図れることはとても良いことですが、そのつながりが強固なものになると、患者さんが医療モール自体を一つの医療機関と認識するようになることが考えられます。こうなると、他の医療機関の評判が良い意味でも悪い意味でも自身の経営する医療機関の評判に関わってきてしまいます。これは、学校内の生徒が1人でも悪いことをしてしまうと「〇〇中学校は行かない方がいい……」と世間から冷たい扱いをされてしまうのと似ている点もありそうです。このため、医療モールの形を希望する際には、あらかじめ医療モール内の医療機関を調査することが必要となり、評判のみならず医療機関の基本情報も調べておくと良いでしょう。
なお、その他のメリット・デメリットに関しては、建物が「戸建て」か「テナント」かによってそれぞれのメリット・デメリット(「2.戸建てとテナントの違い」に記載あり)が反映されてくることになります。
4.おわりに
今回は「医療モール」についてご紹介しました。
戸建て(土地)とテナントについては、以下のコラムにも記載がありますのでぜひご覧ください。